大判例

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福島地方裁判所会津若松支部 事件番号不詳 判決

主文

原告の請求は之を棄卸する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は被告等は原告に対し福島県河沼郡上野尻村字上沖ノ原二千五百十八番地上木造杉皮葺二階建居宅一棟建坪十八坪外二階十二坪を明渡すべし訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決を求め其の請求の原因として(一)原告は昭和二十年四月八日被告善宇所有である右家屋を賃料一箇年四百二十円を前払期間の定なく借受け訴外橋本金属工業株式会社の事務所並社宅として使用せしめて原告は各月一回は工場監督に来ることになつていて宿泊し事務員其の他か右会社の従業員が居住し居たのであつたが(二)被告等は昭和二十三年八月十七日不法に同家屋階下に侵入し二階二室には寝具食器事務用品等原告所有のもの右会社所有物件等存在しあるのに拘らず被告等は二階も不法占拠するに至りて原告の佼用目的を妨げられ賃料は昭和二十四年九月分迄前払しあり被告善宇は現職の警察官であり被告トシは右善宇の妻にして両人共同して不法に侵入を為し居る次第なるを以て昭和二十三年十二月十四日喜多方検察庁に右善宇に対し家宅侵入の被疑事件として告訴提起したが未解決であり被告等には家屋占有を全く奪はれ原告は勿論右会社の従業員の立入も事実上できざる次第であるので本権に基き之が回復を求むる為本訴に及びたる旨陳述し尚被告主張の賃貸借期間の満了は昭和二十二年三月三十一日であるが其の期間満了前に賃貸借更新拒絶の通知がないので二年の期間の更新により昭和二十四年三月三十一日迄賃貸借は更新されたものであり且何時にても明渡すと言うことは借家人に不利益のことであるから斯る契約は無効であると述べた(立証省略)

被告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告の請求原因(一)中被告善宇が原告主張の家屋を所有する事実及同被告が之を原告に賃貸した事実は認めるが其の賃貸した日時賃料及賃貸期間は後記の通りである其の余の賃貸家屋の使用目的其の他の事実は之を否認する請求原因(二)中本件家屋の二階に寝具と衣類の入れてある木箱が存在することは認めるが原告の所有なることは不知又被告善宇が現職の警察官(巡査)で被告トシが被告善宇の妻であること原告が其の主張する告訴を提起したことは認めるが其の他の事実は全部否認する尚賃料は昭和二十二年九月迄受取つたが爾後の賃料は被告善宇が受領を拒絶したので原告が勝手に供託をしたのに過ぎないものであると述べ抗弁として被告善宇は昭和二十年三月三十一日原告に対して本件家屋を原告の妻子の戦時疎開の為に期間を二箇年として賃貸した然し同被告は当時耶麻郡喜多方警察署管内の同郡大塩村巡査駐在所に勤務中であつたが何時転勤となり又は退職に至るやも知れないので其の都合上同被告又は其の家族等が此の家屋を使用する必要が生じた場合には右期間中と雖同被告から之が解約を申入れ原告は其の後三箇月内に其の家屋を明渡すことを約し賃料は一箇月金三十五円毎月末日払と定め一時的に賃貸したものであつて訴外橋本金属工業株式会社の事務所並社宅として使用する為に賃貸したものではないのである即ち本件家屋の賃貸借は一時使用の為にしたものであるが仮にそうでないとするも被告善宇は昭和二十二年十月此の家屋を使用する必要が生じたので原告に対して其の解約を申入れ殊に翌二十三年三月同被告が耶麻郡松山村巡査駐在所に勤務中自治体警察の発足すると共に同被告は之に編入され同郡喜多方町警察署勤務を命ぜられたので従て右松山村駐在所附属の官舎も明渡さなければならなくなつて被告等及其の長女和子二女愛子長男好延が住う為にどうしても其の家屋が必要となつたので重ねて同月中被告善宇は原告に対して之が解約明渡方を申入れ爾来再三其の明渡を要求して来たのであるから其の賃貸借は前記契約に基いて其の後三箇月乃至借家法の規定により六箇月の経過と共に終了したものである然し当時本件家屋には訴外相沢義一郎が其の家族と共に居住し原告の為に之を代理占有して居て其の明渡をしなかつたのであるが其の後右訴外人は昭和二十三年八月被告等に対して其の家屋の階下一室を明渡したのである尚被告等がここに引移るのについては右訴外相沢義一郎と其の妻ナオエが畳を敷入れ又戸障子の張替等迄してくれた次第であつて原告の主張するように無法に侵入したものではないそして右訴外相沢義一郎は昭和二十四年二月末本件家屋から他に移転し被告等は其の全部明渡を受けてここに居住して居るものであるから本件請求には全々応ずることができないと述べ更に本件家屋は賃貸借期間中と雖も被告善宇の請求によつて明渡す約なるを以て賃貸借期間の定はないことに帰するから更新拒絶の通知は不要であり仮りに更新拒絶の通知を要するとするも解約明渡の請求をして居るから更新拒絶の通知をして居るものであり且本件賃貸借は一時的に借したものであるから借家法の適用はないものであると述べた(立証省略)

理由

本件家屋を被告松崎善宇が昭和二十年三月三十一日原告に対し賃貸借期間を昭和二十二年三月三十一日迄とし賃貸したることは成立に争なき乙第一号証並証人小林留雄の証言及被告本人松崎善宇訊問の結果により之を認むるに足る両して右期間満了前被告善宇に於て賃貸借更新拒絶の通知を為したることは之を認むべき証左なきを以て右賃貸借は右期間満了の際前賃貸借と同一の条件を以て更に賃貸借を為したるものとみなすべきを以て右賃貸借の存続期間は昭和二十四年三月三十一日迄と為りたるものと認む然るに右当初の賃貸借契約に於て賃貸借期間中と雖被告善宇が良ら右家屋を使用せんとするときは賃貸借を解約し得べく此の場合に於ては原告は三箇月内に右家屋を被告善宇に明渡すべき約なることは右乙第一号証並証人小林留雄の証言及被告本人松崎善宇訊問の結果により明なるを以て右特約は其の法律上の効力は別とし更新後の右賃貸借にも自然承継せられたるものと認むべく而して被告善宇が右家屋を自ら使用する為原告に対し昭和二十三年五月明渡の請求を為したることは成立に争なき乙第二号証並被告本人松崎善宇訊問の結果により明であり右は賃貸借の解約の申入と解すべく右賃貸借期間中と雖被告善宇は右家屋を自ら使用する為には解約権あることは敍上特約により之を認め得べきも欺る場合の解約も被告善宇が右家屋を自ら使用する為のみにては右解約を正当のものと認め難く其の解約が当事者双方の住居事情に徴し真のにやむを得ざる事情に在るに非ざれば該解約を正当のものと称し難きものと認むべきを以て此の点について按ずるに証人相沢義一郎小林留雄平野国栄田代伝の証言並被告本人松崎善宇訊問の結果を綜合すれば被告善宇は本件当初の賃貸借当時に於ては耶麻郡喜多方町附近の巡査駐在所に勤務し其の任地に居住し其の所有の本件家屋に居住の必要なかりし為原告に疎開に使用の為本件家屋を賃貸するに至りたるも何時転勤又は退職等の事由により本件家屋に居住の必要生ずるやも知れざることを慮り其の賃貸借期間を二箇年とし其の期間中と雖自ら使用の必要を生じたるときは明渡を請求し得べき旨の叙上特約を為したるものなるところ同被告は昭和二十三年三月喜多方町警察署勤務となり本件家屋に居住するの必要生じたるものにして一方原告は本件家屋以外に住宅を有するものにして本件家屋を使用せざるべからざる事情は被告の本件家屋を使用せざるべからざる事情に比し著しく軽度のものと認むべきを以て当事者双方の右事情を較量し且前記認定本件賃貸借成立の事情を参酌し被告善宇の前記解約は正当の事由あるものと認む依て右解約申入より六箇月を経過したる現在に於ては右解約は其の効力を生じ原告はもはや本件家屋を前記賃貸借権に基き使用する権限なきものと謂うべきを以て右賃貸借権の尚存続することを前提とする本訴請求は失当なるを以て之を棄却すべく訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。(昭和二五年八月二七日福島地方裁判所若松支部)

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